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シャネルカンボンライン長財布コピー編集

 まだかすかに暖かみの残る死体の手をハンドルにかけ、右足をアクセルに乗せさせた。そうしてから、朝倉は跳びじさってドアを閉じる。変速レヴァーはDレンジに入れたままだ。  自動変速機付きのノー・クラッチ車なので、アクセルに置かれた宝田の足の重みでエンジンの回転があがると、コルヴェアは静かに発進した。ヨタヨタと進んでいく。泥酔してグロッキーになった者が運転しているようだ。  ゴミ箱にもぶつからずに、コルヴェアは百メーターほど進んだ。スピードは四〇キロぐらいにのぼっている。  そして、そのスピードで、コルヴェアは|溝《みぞ》に前輪の片側を突っこますと、コンクリートの電柱に激突した。  |轟《ごう》|音《おん》と共にコルヴェアのボディが|歪《ゆが》み、窓ガラスが飛び散るのが見えた。次いで電柱が傾き、トランスがスパークした。あたりの家の門灯が消えた。トランスがショートして停電したらしい。  家々の二階の窓が開かれる音を聞き、朝倉は街灯も消えたその一郭から足早に歩み去った。  環状六号の大通りに近づいたとき、朝倉はパトカーや救急車のサイレンを聞いた。そんなことにはかまわずに大通りに出て、流しのタクシーを拾った。  タクシーをわざと何台も乗り替え、大廻りして南千束の宝田の二号の家の近くに戻ったときは、午前一時半を過ぎていた。  乗ってきたタクシーのテイル・ライトが|闇《やみ》のなかに消えていくのを見とどけ、朝倉は小公園の裏側に駐めておいたコロナ一五〇〇まで歩いて、それに乗りこんだ。  五分ほどエンジンを暖めてからハンド・ブレーキをゆるめる。中原街道に車を出して多摩川のほうに車首を向け、キナ臭くエンジンを焦がして素っ飛ばしているタクシーよりも少しスピードを落としてコロナを走らせながら、朝倉は宝田の言ったことを頭のなかで|反《はん》|芻《すう》してみた。  乗っ取り屋の鈴本が、自分に目をつけていることは間違いがない。自分の暗い素顔をある程度知っているらしい。  相手として、鈴本は決して、扱い易い男ではない。朝倉の計算が崩れる時がくるとすれば、それは骨抜きになった会社の首脳部の力によってでなく、鈴本の手によってであろう。  だが朝倉は、戦いも|挑《いど》まずに鈴本に屈服する気はない。自分の身が危うくなってきたことは確かだが、それにはそれなりの対策をたてることだ。逃げ道を用意しておくことも考えておいて|無《む》|駄《だ》ではない……。  多摩堤通り、玉川通りと大廻りして朝倉が上北沢のアジトに戻ったのは、午前二時二十分であった。  家のなかに入って万年床の上に腰をおろすと、朝倉は急に空腹を覚えた。立ち上がって台所に行き、冷蔵庫を|覗《のぞ》いてみたが、干からびたチーズと、乾魚の|臭《にお》いが移ったベーコンの切れ端しか残っていない。  朝倉はテーラー“バーミンガム”で作らせたフィンテックス生地の服の一つに着替えた。ワイシャツは細い|鼠《ねずみ》色の|縦《たて》|縞《じま》、ネクタイはドーヴ・グレイのシルクだ。  念のためにワルサーPPKは|臑《すね》につけ、朝倉はコロナに乗りこんだ。今夜の仕事の報告は、朝倉がしなくても宝田の女房が会社の首脳部に伝えてくれるであろう。運転中に宝田が心臓|麻《ま》|痺《ひ》を起こし、電柱に車をぶつけて死んだと言って……。
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